奈良地方裁判所 平成9年(行ウ)7号 判決 2000年3月29日
原告
辻山清
右訴訟代理人弁護士
吉水三治
被告
梶川虔二
(ほか二六名)
右被告ら参加人
奈良県知事 柿本善也
右被告ら及び参加人訴訟代理人弁護士
川﨑祥記
同
國久眞一
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
一 被告1ないし26及び被告柿本は被告適格を有するか。
法二四二条の二第一項四号にいう「相手方」とは、地方公共団体が有する実体法上の請求権についてこれを履行する義務があるとされる者あるいは地方公共団体との間で法律関係の存否が問題となっているとされる者をいい(最高裁昭和五三年六月二三日第三小法廷判決、判例時報八九七号五四頁参照)、当該地方公共団体の職員あるいはその議会の議員であっても、財務会計行為に関して地方公共団体に対して義務を負っていれば、「相手方」に該当する。
また、本来財務会計上の行為に関して権限を有する長等は、その権限に属する財務会計上の行為をあらかじめ特定の補助職員に専決させることとしている場合であっても、右専決により処理された財務会計上の行為の適否が問題とされている代位請求住民訴訟において、法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当し、ただ、補助職員の財務会計上の違法行為を阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、賠償責任を負うものと解される(最高裁平成三年一二月二〇日第二小法廷判決・民集四五巻九号一四五五頁参照)。
したがって、被告1ないし26は法二四二条の二第一項四号の「相手方」として、被告柿本は同号の「当該職員」として、被告適格を有すると認められる。
二 本件各視察は社会通念上相当な範囲を逸脱したものか。
1 地方議会は、普通地方公共団体の議決機関として、その機能を適切に果たすために必要な限度で広範な権能を有しており、地方議会の活動として合理的な必要性があると認められる事柄については、法令等によって特に禁止されていない限り、議会の自主的な判断に基づいて行うことができると解すべきであるから、議員を海外へ行政視察に派遣することも、議会の裁量によって行うことができ、これが裁量権の逸脱又は濫用と認められる場合に限り、違法となると解される。そして、地方公共団体は、議会で実施を決定した海外行政視察の費用を公金から支出するに際しても、原則として議会の自律性を尊重するべきである。
しかしながら、一方で、地方公共団体の事務を処理するに当たっては最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならず(法二条一三項)、の経費は目的を達成するための必要かつ最小の限度を越えて支出してはならないとされており(地方財政法四条一項)、そのような法の趣旨をふまえるならば、議会で実施を決定した海外行政視察といえども、その内容が右視察の目的・効果等に照らして社会通念上相当な範囲内にあることが必要である。
したがって、議会の実施する海外行政視察の旅費の公金からの支出についても、右の観点からみて、当該視察の実施が議会の裁量の範囲を逸脱していると認められる場合に限り、違法となると解すべきである。
2 そこで、本件各視察が社会通念上相当な範囲内のものと評価できるかどうかについて、検討する。
(一) 〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
(1) 平成七年四月の選挙で当選した奈良県議会議員らは、まず正副議長を選出し、改選直後である同月末から五月初めころ、議長において各会派の代表者が集まる各派連絡会を開催し、四年間の任期の間に全議員が一度海外視察を行うこと、右海外視察は四、五名の議員が目的を持って行うこととし、事務局の者一名を随行させること、その取りまとめを副議長が行うことなどを取り決め、取り決められた内容を会派代表者又は事務局を通じて全議員に通知した。
奈良県議会は、平成八年三月二二日、款・議会費、項・議会費として一四億三三五六万八〇〇〇円と定めた平成八年度一般会計予算を可決したが、右予算の決定に当たって海外視察を実施することを想定し、その内訳として、平成八年度一般会計特別会計予算の関する説明書(〔証拠略〕)において、目・議会費として一一億一三二二万五〇〇〇円、節・旅費として九七一八万七〇〇〇円と定め、さらに説明欄に海外視察費等一九六〇万円と記載していた。
平成八年度海外視察を希望する議員らは、副議長あるいは議会事務局に対して参加意思を表明し、概ね同年二月ころから視察目的、視察先等について調整していたが、同年四月初旬には、被告1ないし4、被告6ないし9、被告11ないし19、被告21ないし25の各議員のグループで本件各視察に行くこととし、それぞれ後記のとおり視察目的や視察先を決め、副議長あるいは議会事務局において本件各視察に随行する事務局職員を決めた。
(2) 被告1ないし4は、都市の再開発、自然景観の保全、観光行政のあり方などを視察目的として五月一四日から二一日までニューヨーク、ナイアガラ、バンフー、バンクーバーを視察することとし、随行職員である被告5は、被告1ないし4と相談の上、奈良交通観光社に飛行機やホテルなど旅行の手配を依頼したほか、都市再開発関係の文献や視察先の地図や各施設の資料等を準備した。
被告1ないし5は、五月一四日、成田空港を経てニューヨークへ到着し、一九七六年ころから本格的に都市再開発が進められたサウス・ストリート・シーポートを訪れて、各種商業施設や美術館を視察した。一五日はナイアガラの滝を訪れ、公園周辺一帯の観光施設やナイアガラの滝自体の保全のための施策等を視察し、一六日はカンガリーのオリンピック公園でオリンピック跡地の活用と観光視察を見分し、翌一七日、カナディアンロッキーにあるバンフーを訪れ、バンフー国立公園における自然景観の保全、そのための各種規制、観光施設の整備状況等を視察した。一八日にはバンクーバーへ移動し、クイーン・エリザベス・パークとスタンレーパークという都市公園を見て、その維持管理方法等を視察し、一九日にブッチャート・ガーデン及び州議会議事堂を視察した後、空路帰国した。この間、旅行社から添乗員一名が同行したほか、各土地ごとに旅行社の手配した現地案内人が付き、案内・通訳や施設の説明等を行っていた。
帰国後、被告5は、被告1ないし4らの意見、感想等を聞いて、同月二七日付けで復命書(〔証拠略〕)を作成し、奈良県議会議長に提出した。
(3) 被告6ないし9は、世界文化遺産、古い街並みや自然景観の保存、観光施設の整備状況などを視察目的として五月一六日から二五日までロンドン、ローマ、フィレンツェ、ジュネーブ、パリを視察することとし、随行職員である被告10は、被告6ないし9と相談の上、近畿日本ツーリストに飛行機やホテルなど旅行の手配を依頼したほか、日程や視察場所の変更にかかる最終の調整、旅行社との打ち合わせ、視察地に関する資料等の作成を行った。
被告6ないし10は、五月一六日、関西国際空港からロンドンに到着し、翌一七日も世界文化遺産であるバッキンガム宮殿、ロンドン塔、大英博物館などを視察し、観光施策を見分した。一八日にはローマへ移動し、一九日、古代ローマの建築遺跡であるコロッセオ、コンスタンティヌスの凱旋門、カラカラ浴場やバチカン市国のサンピエトロ寺院を訪れて、各種文化財の修復作業のあり方、街並みや景観保存のための施策などを視察し、二〇日は、バチカン博物館を視察した後、フィレンツェに移動し、街並みの保存状況を視察した。二一日、ジュネーブに移動して、翌二二日にジュネーブ・シャモニーを視察した後、二三日午後にはパリに移動し、翌二四日午前中は自由行動として各自ルーブル美術館や凱旋門周辺を視察し、夕方、飛行機で帰国した。この間、旅行社から添乗員一名が同行したほか各地で現地案内人が付き、随行職員である被告10は、各議員に対する日程の説明、議員からの要望の取りまとめと調整、現地案内人との調整、議会事務局との連絡などを行っていた。
帰国後、被告10は、聴取した被告6ないし9の意見、感想等をふまえて、同月二九日付けで復命書(〔証拠略〕)を作成し、奈良県議会議長に提出した。
(4) 被告11ないし19は、産業立地のための都市計画、首都機能分散、世界文化遺産の保全のための施策等を視察目的として五月二七日から六月四日までパリ、ベルン、ジュネーブ、ニース、ロンドンを視察することとし、随行職員である被告20は、被告11ないし19と相談の上、奈良観光交通社に飛行機やホテルなど旅行の手配を依頼したほか、旅行社を通じて訪問予定先の施設、すなわちパレ・デ・ナシオン・ソフィア・アンテポリス、英国大使館に連絡を入れ、視察先の資料を収集して議員らに説明するなどの準備を行った。
被告11ないし20は、五月二七日、パリに到着し、翌二八日にスイスの首都ベルンに移動して、旧市街地一帯に中世の街並みが保存されている様子を視察した。二九日はユングフラウ地方を訪れ、アルプスの山々の景観を中心とした観光地としての各種施設、特に鉄道、給水、下水処理、廃棄物対策に関する施設、さらに観光開発のあり方を視察し、三〇日にはジュネーブを訪れ、事前に予約しておいたパレ・デ・ナシオン等の国際会議場を見学して説明を受けた。三一日は、科学技術都市であるソフィア・アンテポリスを訪れ、自然環境を保護する中での企業誘致による産業活性化の状況を視察した。六月一日、ニースヘ移動し、ニースの観光施策、モナコの国際会議センター等やコンベンション誘致のための施策を視察した。六月二日にロンドンに移動して、首都機能等を視察したほか、翌三日は英国大使館を訪れ、農林省から出向している一等書記官から、狂牛病の事情報告及び対策について説明を受け、翌四日、空路帰国した。この間、旅行社から添乗員一名が同行したほか各地で現地案内人が付き、随行職員である被告20は、各議員に対する日程の説明と調整、視察先の施設職員との応対、議会事務局との連絡などを行っていた。
帰国後、被告20は、被告11ないし19の意見やメモを参考にして復命書の草案を作成し、各議員の了解を得て押印をもらい、六月一〇日付けで復命書(〔証拠略〕)を作成しても奈良県議会議長に提出した。
(5) 被告21ないし25は、福祉行政、城郭都市における街並み保存と開発のための施策、観光対策等を視察する目的で五月二八日から六月七日までフィンランド、スウェーデン、デンマーク、ポルトガル、スペイン、フランスを視察することとし、随行職員である被告26は、被告21ないし25と相談の上、奈良観光交通社に飛行機やホテルなど旅行の手配を依頼したほか、訪問予定先の施設、すなわちスウェーデン身体障害者協会及びトレド市役所に連絡を入れ、視察先の資料を収集して議員らと打ち合せるなどの準備を行った。
被告21ないし25は、五月二八日、関西国際空港からロンドンを経てフィンランドの首都ヘルシンキに到着し、翌二九日は広場、公園等の市内施設を視察した。三〇日はスウェーデンの首都ストックホルムに移動し、市内視察の後、事前にアポイントを取っていたスウェーデン身体障害者協会を訪れ、協会のオンブズマン二名から、二時間以上にわたり、協会の活動内容、運営方法、スウェーデンにおける福祉行政のあり方等について説明を受けた。一三日、デンマークの首都コペンハーゲンに移動して、市内及びチボリ公園を視察し、六月一日にはコペンハーゲン郊外を視察した。二日にはポルトガルの首都リスボンに移動し、市内及び郊外の観光施設を視察し、三日、スペインのマドリードに移動して同じく文化観光施設を視察し、四日、トレドを訪れて、都市計画局長も務めているトレド市議会議員と懇談し、トレド市内の都市再開発プロジェクトについて説明を受けた。五日にはパリに移動して市内の施設等を視察し、六日、空路帰国した。この間、旅行社から添乗員一名が同行したほか各地で現地案内人が付き、随行職員である被告26は、各議員に対する日程の説明と調整、視察先の施設職員との応対などを行っていた。
帰国後、被告26は、視察中の案内人の説明を録音したテープ、視察最終日に被告21ないし25で視察の感想・意見等を話し合った際の記録等を参考にして、六月一四日付けで復命書(〔証拠略〕)を作成し、奈良県議会議長に提出した。
(二) 以上のとおり、本件各視察は、視察先の大部分が観光地あるいは観光名所といわれる場所であること、約一週間以上に及ぶ日程であり、その費用も平均して一人当たり一〇〇万円を超えていることなど、その実態が適切なものといえるかどうか疑義を生じさせる要素も多い。
しかしながら、近年の社会生活の発展と複雑化に伴い、地方行政の機能もまた多様化、複雑化しており、これに対応する地方議会の審議活動の充実のためには、個々の議員が広く国内外の行政実情に通じてその見識と能力を高めることが必要であり、それがひいては住民の利益にも繋がると考えられる。また、各議員の活動は、所属する常任及び特別委員会における審査(法一〇九条、一一〇条)に限られず、本会議における議決(法九六条)、招集(法一〇一条)、議案の提出及び表決(法一一二条、一一六条)等多岐にわたっており、その権限を行使する行政分野は広いこと、奈良県議会は、申し合わせにより、常任及び特別委員会における所属議員の構成を一年ごとに入れ替えていること(被告植原一光の供述)なども考え併せると、行政視察の相当性については、各議員の所属委員会の所管事務に限定されることなく、広く奈良県行政一般との関連性をふまえて判断すべきであり、行政視察に関する議会の裁量の範囲は、その視察目的、視察内容等についても広範なものとならざるを得ない。
そして、前記認定事実によれば、本件各視察では、国際会議場パレ・デ・ナシオン、科学技術都市ソフィア・アンテポリス、英国大使館、スウェーデン身体障害者協会及びトレド市役所については事前にアポイントを取り、担当職員らから説明を受けているほか、その他の視察場所も歴史的価値のある文化遺産等を有する観光地が多く、奈良県自身多くの歴史的遺産を有する古都であって、観光行政に力を入れるとともに文化的遺産や自然景観を保護しながら開発を進めていく必要があることに照らすと、このような世界的な観光地を訪れ、その施設の状況や観光行政のあり方を見ることは、長期的に奈良県の行政施策を遂行する上で有益であるといえなくもない。そのほか、本件各視察におけるスケジュールには、各議員の自由時間は少なく、個人的な遊興目的で行動していた形跡は認められないことなどをも考慮すると、本件各視察の実施が社会通念上相当性を欠き、議会の裁量の範囲を逸脱しているとまでいうことはできない。
また、事務局職員の随行についても、前記のとおり、随行した職員は、事前に連絡を入れていた視察先施設との打ち合わせ、視察中の議会事務局と参加議員らとの連絡、参加議員に対する日程説明やその意見のとりまとめ等の事務を行っていたことが認められ、これらの事務が、その必要性が強いものであったか否かはともかく、海外行政視察を円滑に進めるために有益であったこともまた確かであると推察されるから、職員の随行を認めたことが、議会の裁量の範囲を逸脱しているということもできない。
三 本件各視察の決定手続は違法か。
法九六条一項は、一号から一五号までに掲げる事件については議会が議決しなければならないと規定して、制限列挙主義を採用しており、これ以外の事項に関する団体意思の決定は、長その他の執行機関が自己の権限内の事項について行うことができるものと解される。したがって、普通地方公共団体の議会における行政視察の実施については、その執行機関である議会において、相当な方法により決定されていれば足り、必ずしも本会議における議決まで要するわけではないというべきである。
これを本件について見ると、前記(争いのない事実等及び当裁判所の判断二2(一)(1)のとおり、本件各視察は、平成七年四月改選後の議員から選ばれた議長が各会派の代表者が集まる各派連絡会を開催して、右各派連絡会において海外視察を実施することを決め、会派代表者及び議会事務局を通じて全議会に通知したものであること、右取決めに従って、各年度の一般会計予算において海外視察費を想定して議決し、副議長において参加希望の議員から連絡を受け、議会事務局を通じて各視察先や日時、随行職員を決定したこと、参加した被告らは議長又は議会事務局長の旅行命令を得て本件各視察を実施したこと、その費用についても支出負担行為及び支出命令を経て受給していることが認められ、このような一連の経過からすれば、本件各視察は議会内において相当な方法で決定されたものというべきであり、その決定手続に違法はないと認めるのが相当である。
四 本件各視察の旅費は予算外から支出されたものか。
法は、普通地方公共団体の長は、毎会計年度予算を調整し、年度開始前に議会の議決を経なければならず、予算を議会に提出するときは、政令で定める予算に関する説明書をあわせて提出しなければならないこと(法二一一条)、歳出予算はその目的に従ってこれを款・項に区分しなければならず(法二一六条)、歳出予算の経費の金額は、原則として各款の間又は各項の間において相互に流用することができないこと(法二二〇条)、歳入歳出予算の各項を目・節に区分するとともに、当該目節の区分に従って予算を執行すること(法施行令一五〇条)を規定している。また、奈良県予算規則は、目・節の経費についても、原則として当該目・節に定める経費以外に流用してはならず(同規則一四条)、各自の間又は各節の間において流用を必要とするときは、予算流用調書及び予算流用要求書によって総務部長の承認を受けなければならない(同規則一六条)と規定している。
このような法及び奈良県予算規則の各規定は、そもそも予算制度とは、その議決を通じて地方公共団体の行政活動につき民主的な統制を行い、効率的かつ有効な執行を担保するものである以上、予算科目をなるべく細分化し拘束力を持たせることが望ましいとも考えられる反面、現在の多様化、複雑化した行政実務を円滑かつ効率的に運営するためには、現実の情勢の変化に臨機応変に対応できるように、ある程度弾力的な執行を許容することも必要であり、このような相反する要請の調和を図るという趣旨で設けられたものと解される。
このような法の趣旨からすると、前記法及び奈良県予算規則で禁止されていない節内の予算の流用については、予算に関する説明書の記載に拘束されることなく、行政運営上の必要性に応じて弾力的にすることができると解すべきである。
これを本件について見ると、本件各視察の旅費は、平成八年度一般会計予算の目・議会費中、節・旅費九七一八万七〇〇〇円の範囲内で支出されているものであるから、違法な予算外支出に当たるということはできない。
五 本件各視察の費用見積もり及び契約締結の方法は違法か。
まず、原告は、奈良県が業者に頼んだ見積もりの中に現地案内人の費用等がないことから、これら現地案内人の費用等も国際交通運賃等に含めて見積もらせたと推察されると主張するが、国際交通運賃(飛行機代)はある程度客観的に把握できる金額であって、これに現地案内人の費用等を含めて見積もらせるということは通常考え難く、本件に顕れた全証拠をふまえても、そのような違法な見積もりをさせたと認めることはできない。
また、原告は、本件各視察を団体契約として契約し、旅行業者に競争入札させることによって、より少ない経費で視察を実施することができたはずであるから、議員個人に契約を締結させたことが違法であるとも主張する。
確かに、地方自治体は最小の経費で最大の効果を挙げるべきであり(法二条一三項)、経費はその目的を達成するため必要かつ最小の限度を超えて支出してはならないのであるから(地方財政法四条一項)、行政視察についても経費節減に努めて実施すべきであり、より安く実施する方法があれば、そちらを選択すべきであるのは当然である。しかしながら、議会の実施する行政視察は、参加議員の視察目的に従い、視察の効果が上がるように旅行日程を組む必要がある上、視察予定の各種行政施設に連絡を入れてアポイントを取るなど特別な手配を要するものであり、旅行の計画を立てる段階から業者と議会事務局等との間で緊密な連絡を取る必要も存する。このような行政視察の特殊性を考えると、競争入札になじむか否かの点も疑問であるといわざるを得ず、本件のように、各議員に旅費を支給させて議員個人と旅行業者の間で契約させるという方法を選択したことが違法であるということはできない。
六 以上の次第で、原告の主張する違法事由はいずれも採用し難く、本件各視察の旅費を奈良県の公金から支出したことが違法であるということはできないから、本訴請求はこれを棄却することとする。
(裁判長裁判官 永井ユタカ 裁判官 川谷道郎 松山遙)
別紙旅費明細書〔略〕